「これだけは外すな!」2019年 上半期 おすすめ映画ベスト3
文化が芸術を生んだのか。それとも芸術が文化を生んだのか。
これは人類にとって最も難解な問いであると言える。
この命題の真偽を確かめる術など私は持ち合わせていないが、一つ間違いなく言えることは、芸術と文化は切っても切れない関係にあるということだろう。
ここで当然浮かび上がるのは「芸術とは何か」、という問題である。
少なくとも“遊び”無しに芸術が生まれることはない。言い換えるなら、芸術とは一種の“遊戯”を高い次元へ昇華させたものであるとも言える。
今から約80年ほど前ヨハン・ホイジンガは、遊戯こそが人間活動の本質であり文化のオリジンだとした。
これを正しいとするならば、「芸術とは何か」を理解することが、「人間とは何か」を理解する第一歩になるのではないだろうか。
さて、我々が“芸術”と聞いて連想するものは、絵画・彫刻・舞踊・建築・演劇のようなどこか格式ばったものばかりで、自分にとって馴染みの無いものに思えるかもしれない。
このイメージはあながち間違ってはいないのだが、しかし一つだけ我々にとってとても馴染み深い芸術が存在する。
言うまでもなく「映画」だ。20世紀に大きな発展を遂げた表現手段である「映画」は、“最も近代的な芸術”だとも言えるだろう。
ということで、みんな映画を観よう!(無理やり感)
そろそろ本題に入っていきましょう...
この半年間を振り返ると、いわゆる超大作と呼ばれるような作品は少なく、比較的低予算で作られた良作が豊富だったような印象です。
尤も、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の歴史的大ヒットによって世間の印象は真逆になっているかもしれませんが。
しかし実は北米では、10月に日本での公開を控える『ジョン・ウィック:パラベラム』が『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開からわずか3週間でランキング首位を奪っています。公開を楽しみにしている映画ファンも多いでしょう。
ではこの半年間で公開された作品の中で、私が皆さんに是非お勧めしたい3つの作品を紹介させて頂きます。
(当ブログ末尾に、私がおすすめする2019年上半期の映画を1位から10位まで一気に並べています。そちらも合わせて参考にしてみてください。)
目次
第3位
「洋画」と聞いて、ド派手なアクション映画やSF映画ばかりを思い浮かべてしまう人はやはり一定数いると思いますし、その価値観を否定するつもりは一切ありません。
ですが私は今回この評論を通して、そういった方々に新たな「映画観」を知って頂きたいと思い、本作をこの順位にしました。
本作は、「普段あまり映画を観ない方にこそ特にお勧めしたい映画」です。
第91回アカデミー賞では『ROMA/ローマ』と並び最多9部門10ノミネートを獲得し、オリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞した事でも話題となりましたが、残念なことに日本での認知度はそこまで高くないような気がします。
誰もが知る名女優エマ・ストーンを以ってしても国内での興行成績が芳しくない現状は、日本の映画後進国としての一面を感じさせます。
前置きはこのくらいにして映画の内容に触れていきます。
この映画が扱うテーマはあくまで「愛」と「野望」というありふれたものであり、難解なストーリーではないので、そう言った意味では観やすく、すんなりと入ってくる映画だと言えるでしょう。
しかし、シンプルなテーマを軸としながらもここまで既成の枠にとらわれない作品に仕上げてしまう監督の手腕は驚異的です。
実際にこの映画をご覧になれば一目瞭然なのですが、とにかく撮影方法が独特です。
本作の監督を務めたヨルゴス・ランティモスは、自身のインタビューの中で本作の撮影方法について以下のように語っています。
「超広角レンズの映像が歪な世界観を引き立てる。広い空間に数人しかいなければ、どんな金持ちでも囚人のように見える。」
スクリーンに映るものはどれも豪華で美しいのですが、薄暗く歪んだ映像からは、ある時は不穏で、ある時は滑稽な空気を強く感じます。
また、広い画角で人物を捉えたかと思えば今度は極端にカメラを人物に近づけるなど、映像一つで意図的に我々観客を不安にさせます。
また観客を不安にさせる要素として、撮影方法の他にBGMも挙げられます。
全編を通して居心地の悪いクラシックが鳴り響く演出は、まるで我々観客が異質な世界に迷い込んでしまったかのような感覚にさせます。
前述の撮影効果とこのようなBGMの組み合わせによる不気味さは他に類を見ないレベルだと言えるでしょう。
並外れた演出力でこれほどまでに不気味な異世界を構築していく様には感動すら覚えます。
これこそが「映画」だ!
と、声を大にして言いたい作品です。
第2位
『ハッピー・デス・デイ』
「ちょっと暇だし、面白くて軽い気持ちで観れる映画ないかなあ」と思っているあなた。
この映画こそが面白くて軽く観ることの出来る映画の最高到達点です。
製作にあたったのは『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ、『ゲット・アウト』、『スプリット』、『ハロウィン』、『パージ』、『ヴィジット』などの名作ホラー映画を手掛けた“あの”ジェイソン・ブラム。(個人的に全てのホラー映画の中で一番好きな作品は『ヴィジット』です)
映画ファンならこの字面を見るだけで「観に行くしかないだろ」と思ってくれそうですが、映画に詳しくない方や、ホラーが苦手だという方のために、この場を借りて私が責任を持ってあなたの足を映画館に運ばせます。(もしくはTSUTAYAに)
まず言わなくてはいけないことは、この映画はホラーではありません!安心してください!
ホラー要素が一切ないと言ったら嘘になりますが、その割合は半分にも満たないと言っていいでしょう。
公開初日のほぼ満席の劇場は爆笑で包まれていました。2019年上半期1のコメディ映画だということに誰も異論はないはずです。
本作の内容を一言でまとめると「タイムループ系SFダークコメディ」です。
同じ日、同じ時間をループし続ける主人公がそのループから抜け出すという、SF映画や日本のアニメなどでもよくみられる展開ですね。
(余談ですが「ループ系SF映画」の個人的最高傑作は『ミッション:8ミニッツ』です。)
本作の見事な点は、一種の確立されたジャンルである「ループ系SF」をホラー映画的・スラッシャー映画的な展開に落とし込んだことです。
まず当たり前な話ですが、ホラー映画は怖くあるべきであり、ループ系SF映画は楽しくあるべきです。そして「怖い」と「楽しい」の両立はとても難しいでしょう。
しかし本作は「ホラー」という展開と「SF」という展開に加えて、さらに「コメディ」要素、犯人探しという「ミステリー」要素までぶち込んできたわけなんです。
もうどんな感情で観てればいいか分からないです。
殺人鬼の恐ろしさに息を呑んだかと思えば、今度は涙が出るほど爆笑させられ、そしてその涙が次は感動によるものへと変わります。
ここまで96分間を一瞬に感じる映画体験は人生を通して稀有な経験となるでしょう。
このように圧倒的なまでのエンターテインメント性に満ち溢れた本作ですが、その魅力はそれだけに留まりません。「あ~面白い映画だった」だけでこの映画は決して終わらないのです。
本作をご覧になれば分かるのですが、ジェシカ・ローテ演じる主人公の女子大生ツリーはいわゆるクソ女です。そのため本作に付けられたキャッチコピーは「時を駆けるビッチに明日は来るのぉぉぉ?」という、なんだか筒井康隆の小説を連想させるような色々な意味でぶっ飛んだものとなっています。
しかし、スピード感溢れるアップテンポな展開の中で、クソ女だった主人公ツリーは確かに成長していくのです。これまでの自分の行いを省み、自分の人生を正しく生きようと奮闘する彼女の姿には心打たれるものがあります。
そしてその彼女の姿は、きっと私たちの人生に大きなパワーをもたらしてくれる強固なメッセージとなることでしょう。
この映画を観終わった誰もがジェシカ・ローテ演じる女子大生ツリーを大好きになっているはずです。
本作を大成功に導いた立役者(文字通り)は、主演を務めたジェシカ・ローテでしょう。これ以上ないほど完璧な配役だと思います。
見るものを惹きつける演技力と、歩くだけで様になる美貌、そしてジェシカ・ローテ本人に備わるカリスマ性。これらなしにしてこの映画は実現しなかったでしょう。
96分間という比較的短めな上映時間も、軽い気持ちで観る映画としては丁度良いものではないでしょうか。
大の映画ファンの方は たまにはこんな映画も、普段映画を観ない方はこの映画だけは、是非観てみて下さい!
第1位
『ハンターキラー 潜航せよ』
我らがジェラルド・バトラーが主演を務め、名優ゲイリー・オールドマンや、惜しくも2017年にこの世を去ったミカエル・ニクヴィストらが脇を固めた新時代の<潜水艦モノ>映画です。
とにかく面白い!この一点に尽きる!老若男女全世界の全人類にお勧めしたい作品でございます。
ここ最近はスクリーンに滅多に姿を見せなくなった<潜水艦モノ>ですが、その理由として挙げられるのは「もうネタが無い」ってところですね。
それだけに、この映画を製作するにあたってのハードルの高さは想像を絶するものだったと思います。
それを踏まえて本作は、<潜水艦モノ>というジャンルに、いわゆる<特殊部隊モノ>を掛け合わせる事で映画史における前人未到の新天地へと歩を進めたのです。
この字面だけを見て「面白いジャンルと面白いジャンルを合体させてるんだからそりゃ面白くなるでしょ」なんて思う前に少し考えてみてください。
「サッカーと野球を五分五分の割合で混ぜた新しいスポーツを作ってください」
そう、まさにこれなんです。あなたが今「いや色々無理でしょ」と思ったそれを、この映画はやってのけているのです。しかも完璧に。
「サッカーと野球を五分五分の割合で混ぜた新しいスポーツ」を綺麗に作ってしまっているのです。
勿論この映画の魅力はそれだけに留まりません。
まずはっきりと分かる事は、主演ジェラルド・バトラーの使い方でしょう。
主演がジェラルド・バトラーと聞けば、きっとこの映画はいわゆる<潜水艦モノ>と言うより、彼が身体を張りまくるバチバチのアクション映画になるだろうと、そう思うはずです。(私もそう思ってました)
しかし本作で彼が作中にやる事と言えば「立って喋る」くらいなんです。
「よく聞け、お前の弟の断末魔だ。」と、自分が今まさに刺し殺してる人のお兄さんに電話してあげるジェラルド・バトラーは一体どこへ…(エンド・オブ・キングダムの名?場面です)
派手な動きのない役柄にも関わらず、「この男は別格だぞ」と思わせる彼の演技力の高さには最早言及の必要性など無いですが、それを更に際立たせる映画としての演出方法は絶賛に値します。
例えば映画序盤で初めて敵艦と遭遇する場面、つまり物語の掴みの場面で、我々観客だけでなく彼の部下までも含めた「全員」が一瞬にしてジェラルド・バトラー演じるグラス艦長の別格感を思い知るシーンがあります。
潜水艦の乗組員も、スクリーンの前に座る我々も、まさしく「Holy Shit」です。この「Holy Shit」に至るまでに、分かりやすく部下からの人望がないというような演出をしていたのも一種の布石となっています。
つまりグラス艦長の部下たちと、我々観客の視点がばちんとリンクするような構造を意図的に作り出しているのです。
さらに物語全体を通しての脚本の作りは完璧に近いと言っていいでしょう。
ネタバレになるのでここでは口に出来ませんが、映画最終盤にジェラルド・バトラー演じるグラス艦長はある大英断を下します。
実はこの最後の決断、グラス艦長が最初にスクリーンに登場する場面ですでに暗示されているんです。
そしてクライマックスのカタルシスは形容し難いほどの爆発力を持っています。
122分間どのシーンをとっても一切の無駄がないような、緻密で計算し尽くされた脚本にはただただ嗟嘆する他ありません。
最後にもう一度言わせてください。
とにかく面白いです!
是非観てみてください!お勧めです!
10位から1位までを一挙紹介!
最後に、私がこの半年間で鑑賞した新作映画の中から、惜しくもベスト3入りを逃した作品(10位~4位)を一挙紹介したいと思います。
ぜひ参考にしてみてください!
10位 『ハウス・ジャック・ビルト』
連続殺人犯ジャックの12年間にわたる物語が描かれるサイコロジカルホラー映画。
まるで倒れそうな天秤を見せられているような映画です。
ショッキングなゴア表現とダークすぎるユーモアがとてつもないバランス感覚で成り立っています。
R18+指定映画ということもあり、とても万人におすすめ出来る映画ではありませんが、大の映画ファンにとっては必見の作品です。
9位 『ブラック・クランズマン』
コロラド州コロラド・スプリングスで、アフリカン・アメリカン初の市警察巡査となったロンの活躍をコミカルに描いた伝記映画です。
人種差別というダークな話題を、コメディ感を強めることでとても観やすいものにしています。
そして終盤に用意されたカタルシスは万歳して叫びたいほど気持ちのいいものです。
しかし、本作の持つメッセージ性は恐ろしいほど強力だと言えます。
そのギャップが世界的な大絶賛を引き起こした大きな要因でしょう。
8位 『ミスター・ガラス』
言わずと知れたホラー映画界の異端児M.ナイト・シャマラン監督の最新作。
『アンブレイカブル』、『スプリット』に続くシャマCU作品()の最終章です。
これらの作品を観てきた方達なら勿論、この映画から観初めた方でも十分楽しめるはずです。
個人的には少なくとも前作の『スプリット』だけは予備知識として観てからにすると、本作の面白さは倍増すると思います。
7位 『ファースト・マン』
史上初めて月面を歩いた宇宙飛行士ニール・アームストロングの月面着陸ミッションを描いた伝記映画です。
これだけ読むとありふれた米国万歳映画に思えるかもしれませんが、他の宇宙開発を描いたノンフィクション映画と比べると、水と油と言えるまでに異彩を放つ作風で描かれています。
本作品はあくまでニール・アームストロング自身の物語を描いたものであり、NASAの輝かしい成功を描いたものではありません。
「今更アポロ計画の映画なんて観なくていいや」と早合点する前に、この映画だけはどうか...!
6位 『バイス』
またもやクリスチャン・ベールの怪演が光っております。
ノンフィクション映画でありがちな中だるみした展開を見事に潰しており、テンポよくストーリーが展開していく様は本当に気持ちがいい!
また、その展開のさせ方自体がとても斬新かつ奇抜です。
退屈とはかけ離れた映画でしょう。
5位 『七つの会議』
本ブログ唯一の邦画となりました。
原作である池井戸潤の小説が傑作的に面白いので映画化しても面白いのは当然と言えば当然な話でございます。
やはり誰もが連想するのがTBS系で放送されたテレビドラマ『半沢直樹』でしょう。
『半沢直樹』を楽しんでご覧になっていた方なら、必ず本作も気に入って頂けるはずです。
4位 『運び屋』
名匠クリント・イーストウッドが『グラン・トリノ』以来10年ぶりに監督・主演を務めた実際の報道記事に基づく犯罪ドラマです。
今回私が取り上げた作品の中では、最も世間的に話題となった作品ではないでしょうか。
最後(かもしれない)のイーストウッド主演・監督作品となれば、ある程度の映画ファンなら何も考えずに映画館へ向かうはずです。
わざわざ私がベスト3に取り上げずとも、すでに劇場でご覧になった方々が多いと思うのであえてこの順位にいたしました。
こんなことを今更書くのもおこがましい話ですが、やはり彼の演出力は驚異的です。
特にクライマックスの絵的なバイタリティは息を呑むほど壮観です。
見逃してしまった方はMUSTで観てください笑
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
このブログが少しでも皆様の映画選びの参考になることを祈っております。
また、普段あまり映画をご覧にならない方が、1ミリでも「映画」というものに興味を持って頂けたなら、私にとってこれ以上の喜びはありません。
そして最後に、映画に携わる全ての方々に感謝の意を表します。
いつも素敵な時間をありがとうございます!